東京-新宿-
2月7日
金子隆太と再会してから3週間が経つ。
バレンタインのチョコレート売り場で賑わうデパートを歩きながら
依子はぼんやり歩いていた。
……………………………
うーん
色々考えてみたが、連絡先の交換もしていないこの状態で
『また今度』会うのは、一方的に待つしかない。
しかも、金子隆太は
どうやら群馬に今も住んでいるらしく
会社の関係で群馬から時々都内に資材納品の為に来ているらしい。
つまりもしまた会社で会ったとしても
そのまま『今日飲みに行こう』と言える環境ではない。
実家の群馬で会う、と言う手もあるが
相手に家族がいるかも知れない状況で上手に誘える自信もない……
そんな非生産的な待ち方は依子の性には合わなかった。
「まぁ、そんなもんだよなー」
また今度………か。
手にした派手なチョコを元の位置に置く。
別に、恋人でもないし、自然な事。
偶然再会して挨拶しただけ。
軽く口角を上げる。
チョコと一緒だ。
社交辞令の様なもの。
いかにも義理チョコととれる簡易な紙包装の四角い箱を
いくつかまとめてカゴに入れる。
忙しそうに棚に陳列している店員に尋ねた。
「すみません、生チョコートの売り場ってどこですか?」
「えっとあの角にショーケースがありまして………」
…………………………………………
そうは言っても、
依子には恋人がいる。
5年付き合っている
『靖史』だ。
このまま結婚するのかなぁーと思いながらも、なかなか二人で腰が上がらない。
両家の挨拶とか結納とか披露宴とか
考えると面倒くさい。
誰か勝手にでも進めてくれたら楽なのにな
と、二人でよく話す。
靖史とは
気心も知れてるし、信用もおける。
もともと女関係に煙の立たない人だったから
そんな心配もない。
ただ、異様に仕事の忙しい人であった。
「…………はい、分かりました。有難うございます」
店員に軽く会釈をすると、電話の着信に気づく。
靖史だった。
「もしもし…靖史?あれ、今日も仕事だよね?どうかした?…うん、今伊勢丹……ほら、もうすぐバレンタインだから……会社のとか……」
うん…うん…
その日は、久しぶりに靖史と夕食に行く事になった。
最近忙しく、二人でいる時間が減った事への
お詫びの気持ちだろうか。
「雪降ったね、こないだ」
「ああ…そうらしいね、ずっと会社にいたから分からなかったよ」
うん…うん…
「じゃあ、7時に池袋でね。」
「うん、今晩ね」
こうやって
好きな人と
会える時に
会えればいい。
それで幸せである。
それは本心で、しかしながら
結婚までに色んな時間があっていい
それも常に依子の気持ちを、安定させてるのも事実だった。