同日21時過ぎ‐池袋‐
まさか、こんな事になるとは思わなかった。
幹枝が
まさかこんな席で泥酔するとは。
「緊張してたんですかね〜。とりあえず僕、自宅まで送って行きます」
どうやら矢部の家も、高崎線沿いで、送って帰れる位置関係らしい。
二人を駅まで見送った。
隆太は
「これから時間ありますか?」
と言った。
更に、まさかそんな事になるとは思わなかった
と思った。
「もう少し飲みませんか?」
断る理由はなく
隆太に誘われ、駅西口の地下のバーに入った。
店内は薄暗く、週末の二軒目を愉しむ人達でごった返していた。
「何飲みます?」
それだけ言った。
隆太は
無駄に話さなかった。
頼んだカクテルが来て
乾杯をした。
「ようやく、二人で飲めましたね」
カウンターに座りながら体を依子の方に向け
肘をつきながら言った。
「そうですね、再会してから半年くらい経ってますもんね」
「まさか、同じ中学の人がお得意様の東京の会社で働いてるなんて、思わないよ。」
そう言って笑った。
笑うと、薄暗い照明の中で、隆太な影が揺れた。
今
この笑顔は私に向けられている。
依子は
金子隆太の不思議な空気に浸っていた。
ほろ酔いを一つ越えたくらいの
気持ちの良い時間。
「群馬には帰ってるんですか?」
隆太は言った。
「あ……、滅多に帰らないですね。お盆と正月くらいかな。
私実家に友達いないし。
あ、覚えてますかね、えっと、原さん、あの子くらいですよ、会ったとしても」
そう言って照れて笑うと
「だから不思議なんですよね。高田さんて。
中学校からそうだったけど、頭良くて美人でちょっと近づきがたい雰囲気はあるのに
何故か、周りにいる友達はちょっと変わってるっていうか、豪快と言うか、。幹枝さん、しかり。」
二人で笑った。
きっと周りから見たら
この二人は
恋人同士には見えない。
それは
中学校の同級生である、と言う気心の知れた雰囲気もあるし
ある種の駆け引きの様な充満した甘い雰囲気でもあった。
現に
こうやって
見つめ合って
無言でいる事に
依子は抵抗がなくなっていた。
隆太がそれを自然に受け入れているのだ。
たまらなく依子は言った。
「金子さん、ご結婚されてるんでしょ?同級生?奥さん、私知ってる人?」
「あ〜、知らないと思う。俺、工業高校行ったんだけど、そこにいた娘だから」
「え、前工だっけ?確か女の子少ないよね?」
「そうだね、女子の割合一割くらいだったかなぁ。入学してすぐに付き合って、色々あったけど、長く付き合って結婚したかな」
「そうなんですね……」
依子が微笑む。
「中学校からなんか金子さんませてたもんね」
「そぉぉぉう?自然体だよ〜っ」
隆太が顔をしわくちゃにして笑う。
昔からこの人は自然体だった。
「あたしもね、今結婚、考えてるんだ」
依子は言った。
「へぇ?どんな人なの?彼氏。」
「うーん。いい人。真面目だし、なんか私に合ってるっていうか……」
「へぇ?!合ってるとか分かるの?俺付き合って15年、今結婚して7年経つけど、結構分からないもんよ〜」
と言って笑った。
その時、携帯がなった。
「お」
と言っておどけた表情を見せながら、電話に出た。
どうやら奥さんからの連絡だった。
会話を聞いていいものか分からず、依子は横を向いた。
「あ、もしもし。うん、まだ東京。い…けぶくろ。うん、飲んでる。終電はねぇ…」
その時、隆太が依子をちらりと見た。
依子はドキッとした。
「1時25分に着くみたい。お迎え宜しくね。莉子寝かせてからおいでね」
そう言って電話を切った。
その日は二人はもう一杯ずつ飲んで
帰る事になった。
「また、高田さんと飲みたいな」
隆太が別れ際に言った言葉だった。